カザルスのベートーヴェン交響曲第7番
私の大好きな名盤・その9
ベートーヴェンの交響曲第7番
指揮:パブロ:カザルス、演奏:マールボロ音楽祭管弦楽団、録音:1969年2月ライヴ録音
第7番は古典的な作曲法という観点でいえば9曲のうちで最も評価の高い曲だ。この曲のLPを買ったのは高校生の時だった。コンヴィチュニーが指揮したものだった。オーソドックスな演奏で好感は持てたが、第1楽章と第4楽章の力感いっぱいに盛り上がるところで低弦に音量が足らなくてじれったい気持ちを覚え、大好きな曲の仲間入りには至らなかった。
CD時代になって評論家には評価の高いクライバー盤を買ったが、じんわりと心に残る満足感を感じず、毛色の違うジンマン盤を試しに求めたが全くよくなかった。
デイヴィス盤は細部まで丁寧に彫琢されて充実感が残る演奏だがすべての個所で繰り返されるので冗漫な印象が否めなかった。カイルベルト盤はいちばん冗漫になりやすい第3楽章の繰り返しを思い切って割愛していてその判断に頷首したのだが、カザルス盤がすべての疑問やジレンマを解決してくれた。
カザルスさんは偉大なチェリストで指揮は手すさびごとだと勝手に決め込んでいたのは大間違いだった。どの音にも作曲者の魂が感じ取れるような深い精神的洞察世界が展開されている。第3楽章はその世代の人としては意外にもすべて繰り返す解釈だが、冗漫どころかなるほどと思わせる説得力が潜んでいる。
カザルスさんの大きな人間性に心をわしづかみにされ、均整のとれたギリシャ彫刻のような偉大な曲を聴いたという充実感と幸福感に酔わせてくれる名盤だ。