デムスのシューマンピアノ五重奏曲
私の大好きな名盤・その11
シューマンのピアノ五重奏曲
演奏:イエルク・デムス(ピアノ)、バリリ四重奏団、録音:1956年
前述のシューベルトの「ます」のB面に入っていた曲で、そのLPで初めて知った曲だ。そこで大好きになってCDもこの演奏のを買った。シューマンの交響曲に散見される曲の進行の唐突感はなく完成度が高いように感じる。全く個人的なことだが、この曲を聴くとゴッホの初期の代表作「馬鈴薯を食べる人たち」を連想する。貧しいけれど心寄せ合って過ごす団欒の絵の温かみに相通じる面があるからだろう。高校生の同じ時期にゴッホの画集を買ったことが深いつながりの一番の要因だとは思うが。
デムスさんの控えめでリリックな語り口と高雅な響きのバリリ四重奏団との息の合った演奏が、完成度の高いこの曲に美しい格調と翳りの彩りを加えて大人の音楽といった高みに到達した演奏のように思う。
第1楽章の焦燥感と安堵感とが入り混じった心模様、第2楽章の憧憬と不安の感情とが目まぐるしく入れ替わる心情の吐露、第3楽章の得意な気持ちで推進したり自省したりしたあと、第4楽章では喜ばしい気分を獲得できて幸せな気分で曲を閉じるが、そんな心の移り変わりが実に丁寧に活写されていて、理知的でいて温かみのある演奏だ。